天の川銀河内で観測史上最も大きな恒星質量ブラックホールを発見

4月27日

 

 

 

図1 ( C ) ESO/L. Calçada/Space Engine

今回発見された恒星質量ブラックホールとその周りを周回する伴星のイメージ図。

 

 Pasquale Panuzzo氏(フランス国立科学研究センター)を中心とする研究チームは16日、位置天文衛星Gaiaデータを解析した結果、天の川銀河内においてこれまで発見された中で最も大きな恒星質量ブラックホールを発見することに成功したと発表した。Gaiaデータからブラックホールの伴星のふらつき具合を解析することによって、ブラックホールの存在を特定することに成功し、Gaia BH3という名前が付けられた。さらにESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT望遠鏡に搭載されたUVES(広い波長範囲をカバーする分光観測器)の追観測により、Gaia BH3の質量が太陽質量の33倍程度であることが判明した。またブラックホールの伴星の化学組成を解析した結果、ブラックホールを構成する重元素量が従来築き上げられた理論モデル同様に少ないことが判明した。今回の観測結果は恒星質量ブラックホールの成り立ちを解明する上で重要な研究成果となった。

 

 恒星質量ブラックホールは、太陽質量の10倍にもなる大質量星が重力崩壊することによってできると考えられている。これまでに天の川銀河内で見つかった最も大きな恒星質量ブラックホールはCygnus X-1という太陽質量のおよそ21倍の質量を持つものであったが、今回の観測によってその記録が更新された。これまでに天の川銀河外部においては、似たような大質量の恒星質量ブラックホールはいくつか見つかっており、その形成過程についても理論の形成が進んでいた。その理論は水素やヘリウムよりも重い元素が少ない星、いわゆる金属欠乏星が重力崩壊することによって恒星質量ブラックホールになるというものである。低重元素量の星であれば、星の生涯にわたってそこから放出される質量が少なく、結果的に大きな質量を持つブラックホールができるということである。しかし理論形成は進んでいたものの、観測によってそれを証明することは、今回の発見に至るまでなされていなかった。

 

 今回研究チームは位置天文衛星Gaiaデータの解析によって、何年にも渡る伴星のふらつき具合を調べた結果、天の川銀河内において太陽質量の33倍ほどの質量を持つ恒星質量ブラックホール・Gaia BH3を発見することに成功した。この質量の大きさの恒星質量ブラックホールはこれまでに発見されたことがなかった。驚くべきことにこのブラックホールは地球から非常に距離が近く、わし座方向約2000光年離れた場所に位置する。さらにESOのVLT望遠鏡によってブラックホールの伴星の化学組成を調べた結果、金属欠乏星であることが判明した。通常連星系を成す天体の化学組成は似たものであると考えられており、伴星の化学組成とブラックホールの化学組成は一致するはずである。そのため、今回発見されたブラックホールは金属欠乏星が重力崩壊した天体であることが証明された。

 

 今回のブラックホールの発見は、Gaiaデータの最新版リリースに備えてデータを再鑑している際にたまたま見つかったものであり、Pasquale氏は「誰も地球のこんな近くに大きな質量を持つ恒星質量ブラックホールが存在するとは思ってもいなかった。研究人生において1回しかないような大きな発見である」とコメントしている。

 

 今後はVLT望遠鏡に搭載されたGRAVITYと呼ばれる電波干渉計によって更なる観測が行われ、Gaia BH3がどのようにして周りの環境から物質を吸収しているかなどの調査が行われる予定であるとしている。ブラックホールの成り立ちがどうであったかが明らかになることが期待される。