7月8日

 

 国立天文台は5日、台湾中央研究院天文及天文物理研究所のチンフェイ・リー氏をはじめとする研究チームが、アルマ望遠鏡による原始星HH212の観測結果から、原始星を取り囲む円盤上空部分に複雑な有機分子を発見し、さらに原始星から噴き出すガスのジェットが回転していることを明らかにしたと発表した。

 

 原始星HH212は、オリオン座の方向約1300光年に位置し、年齢は4万歳(太陽の年齢のおよそ10万分の1)と生まれたばかりの“赤ちゃん星”である。またこの原始星は塵の円盤に挟まれていて、ハッブル宇宙望遠鏡などの可視光・赤外線観測やサブミリ波観測を行うとハンバーガーのように見えるため、“ハンバーガー原始星”と呼ばれている。

2017年4月22日ニュース参照

 

 複雑な有機分子は、原始星を取り囲む円盤上空部分において発見され、メタノール(CH(3)OH)とその水素の一部が重水素(D)に置き換わった(CH(2)DOH)、メタンチオール(CH(3)SH)、ホルムアミド(NH(2)CHO)である。(化学式中の(数字)は下付き数字)。複雑な有機分子は、生命の起源にも関連するアミノ酸の材料になるため、生物生存可能性があることを示唆している。またこの発見は星や惑星が作られていく過程において、生命の材料になりうる分子がどこでどのような化学反応を経て作られるのかという謎に迫る上で重要な意味を持っているとしている。この発見についてチンフェイ・リー氏は、「ある程度進化が進んだ原始星の周囲に複雑な有機分子が見つかった時、もっと若い星のまわりにもあるのだろうか、という疑問を私たちは持ったのです。アルマ望遠鏡の高い解像度と感度のおかげで、より若い原始星の周囲に複雑な有機分子を見つけただけでなく、その分布まで描き出すことができました。」とコメント。また、共同研究者のジーユン・リー氏(バージニア大学)は、「こうした分子は、氷に覆われた塵の表面で合成されたのちに、原始星からの光や衝撃波で温められて気化したものと考えられます」とコメントしている。

 

 もう一つの発見である、原始星から噴き出すガスのジェットが回転している事実は、星の誕生に関する長年の謎である「ガスがどのように原始星に降り積もるのか」という問題を解く手がかりになるとしている。星はガスや塵が集まって生まれるが、母体となるガス雲はわずかに回転していて、ガスや塵が中心部に集まるにつれてその回転は速くなる。速く回転すると遠心力も強くなるため、ガスや塵がそれより内側に落下できなくなる(いわゆる角運動量問題)。これでは星が成長することができないため、実際の宇宙では何らかのメカニズムによって回転の勢いが抜き取られていると研究者の間では考えられている。今回の観測結果においてジェットが噴出しつつ角運動量を抜きさっている事実を捉えたことがこの考え方を確固たるものにするということである。

 

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Lee et al.

原始星HH212の画像。(a)はアルマ望遠鏡と欧州南天天文台のVLTでの観測データを合成した画像。(b)は原始星を取り巻く塵の円盤のクローズアップ画像。(c)は、円盤の上空部分に複雑な有機分子が分布している様子を表した画像。緑がCH(2)DOH⇒((数字)は下付き数字)、青がメタンチオール、赤がホルムアミドの分布。

 

 

 

(C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Lee et al.

(a) アルマ望遠鏡が捉えたHH212の塵円盤(オレンジ)とジェット(緑)。(b)はジェットのなかで観測者に向かってくる動きの成分を青、遠ざかる成分を赤で示した画像。ジェットが赤と青に分かれていることは、これが回転していることを示している。