山口自然科学研究室

5月26日

 

 

 大阪産業大学/国立天文台の橋本氏、東京大学の馬渡健井上氏らの国際研究チームは17日、アルマ望遠鏡の観測により、地球から132.8億光年の距離にある銀河MACS1149-JD1から酸素を発見したと発表した。これまで最も遠くで発見されていた酸素の記録を塗り替え、観測史上最も遠方で酸素を発見したことになる。宇宙誕生初期の星や銀河の形成過程の研究に役立つ成果だとしている。

 

 宇宙は138億年前にビッグバンで誕生し、その後数億年が経過したころに最初の銀河が誕生したと考えられている。しかし具体的にいつ頃、どのようにして銀河が誕生、成長してきたのかは現代天文学における大きな謎のひとつある。

 

 こうした宇宙初期の銀河のようすを調べるため国際研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡で発見された遠方銀河MACS1149-JD1を、アルマ望遠鏡で観測した。観測対象は、この銀河に含まれると予想された酸素イオンが出す波長88マイクロメートルの赤外線。アルマ望遠鏡による観測の結果、宇宙の膨張によって大きく引き伸ばされたこの赤外線が波長893マイクロメートル(0.893ミリメートル)の電波となって観測された。この波長の伸びから、この銀河が地球から132.8億光年の距離にあることが判明した。さらに、欧州南天天文台の可視光赤外線望遠鏡Very Large Telescope(VLT)を用いた観測で水素原子が出す紫外線の検出にも成功し、そこから求められた距離はアルマ望遠鏡で得られた距離と良い一致を示した。これらにより、MACS1149-JD1は精密に距離が求められた銀河としてはこれまでで最も遠いものとなった。

 

 今回の研究成果について国際研究チームの橋本氏は「人類史上最も遠い酸素が見えた時には、嬉しさを通り越してドキドキしていました。興奮のあまり、その日の夜の夢にもこの銀河が出て、よく眠れなかったほどです。」とコメントした。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, W. Zheng (JHU), M. Postman,the CLASH Team, Hashimoto et al.

ハッブル宇宙望遠鏡が赤外線で撮影した銀河団MACSJ1149.5+2223の画像の一角に、アルマ望遠鏡が電波で観測した銀河MACS1149-JD1を合成した画像。実際にはMACS1149-JD1は銀河団よりもずっと遠い場所にあるが、地球から見ると偶然重なって見える。画像では、アルマ望遠鏡が観測した酸素の分布を緑色で表現している。

 


 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Hashimoto et al.

アルマ望遠鏡がとらえた銀河MACS1149-JD1からの酸素の電波スペクトル。銀河を出た時は波長88マイクロメートルの赤外線であったが、アルマ望遠鏡による観測では波長0.893ミリメートルの電波として捉えられた。赤方偏移は、宇宙膨張による波長の伸びをあらわす数値であり、赤方偏移zの銀河からの光は、波長が(1+z)倍になって地球に届く。


 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

 

今回の観測をもとに作成した、銀河MACS1149-JD1の成長の様子。宇宙誕生直後から物質が集まり始め、およそ2億年を経過したころから活発に星の形成が始まる。宇宙誕生からおよそ4億年後にガスが銀河からいったん大きく吹き飛ばされるが、そのガスが戻ってきて再び活発に星が作られている様子を表現している。