原始星ジェットの基となる磁気遠心力の構造を解明

3月26日

 

 

 台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)のチンフェイ・リー氏を中心とする研究グループは22日、オリオン座方向約1300光年の距離にある原始星HH212から噴き出す原始星ジェットを対象にしたアルマ望遠鏡による観測データを解析した結果、原始星ジェットの噴き出しの方向を左右する磁気遠心力の構造を解明したと発表した(図1、2)。ジェットの根本付近では多方向に物質の輸送を促す風が吹いているが、原始星から離れるにつれて、原始星円盤に対して垂直に伸びるトロイダル状の磁場に沿って回転しながらジェットが進むことがわかった。

 

 原始星ジェットは原始星円盤に対して垂直に噴き出し、音速を超えるスピードで伝搬していき、コンドリュールと呼ばれるカルシウムやアルミニウムに富んだ石を含む物質を運んでいく。そして噴き出したジェットから再度物質が原始星円盤に戻っていく構造をしていると考えられている。また原始星ジェットの噴出は原始星円盤内において星形成活動が活発に行われている指標となる。しかし原始星ジェットの構造については未だに謎な部分が多い。

 

 これまでは原始星ジェットは原始星円盤に対してシリンダー状に垂直な方向に噴き出していると考えられていたが、研究チームはジェットの根本付近では多方向に噴き出し、原始星円盤から離れるにしたがって、トロイダル状に巻く磁場に沿って垂直にジェットが噴き出すのではないかという一つの仮説を立てた。これをX-wind modelと名付けた。

 

 実際にHH212のアルマ望遠鏡の観測データを解析した結果、X-wind modelを支持する結論を得ることに成功した(図1、2)。HH212はオリオン座の方向約1300光年のところにある原始星円盤である。その中心にある原始星は非常に若く、わずか4万歳と推定され、太陽年齢(46億歳)の約10万分の1であり、質量は太陽質量のおよそ25%である。

 

HH212原始星円盤の構造についてはこちらの記事を参照

 

 

 

図1 ( C ) チンフェイ・リー

原始星ジェットの根本から離れた場所における、トロイダル磁場の構造を考慮したX-wind modelの概略図。赤い部分がジェットの構造を示しており、原始星ジェットの根元に近い場所においてはジェットが多方向に噴き出すが、原始星円盤から離れるにつれて磁場構造に沿って回転しながら真っすぐに進むようになる。緑色の線はトロイダル磁場の構造を示しており、青い矢印は回転方向を示す。

 

 

図2 ( C ) チンフェイ・リー

一番左はアルマ望遠鏡によってSiO分子輝線によって捉えられたHH212のジェットの構造。グレーの部分が原始星円盤、オレンジ色がジェットを示す。真ん中の写真はX-wind modelから予想されるSiO分子輝線の予想図。一番右はX-wind modelから予想される風の向きを含めたジェットの構造である。