いて座A*超巨大ブラックホール周りを高速回転するガスの塊(ホットスポット)を発見

9月25日

 

 

 

 

図1 ( C ) EHT Collaboration, ESO/M. Kornmesser (Acknowledgment: M. Wielgus)

天の川銀河中心に存在するいて座A*巨大ブラックホール(EHTによる撮像)とその周りを周回するガス(ホットスポット)のイメージ図。

 

 マックスプランク電波天文学研究所(ドイツ)のMaciek Wielgus氏を中心とする研究チームは22日、アルマ望遠鏡による電波観測データを用いて、天の川銀河中心にある超巨大ブラックホールであるいて座A*まわりを解析した結果、光の速度のおよそ30%の速さでブラックホール周りを回転するガスの兆候を発見したと発表した(図1)。軌道半径の大きさは水星と同じくらいであり、70分ほどでブラックホールを一周する速さであるとしている。今回の発見は謎の多いブラックホール周りの物理学を研究する上で重要な成果であるとしている。

 

 いて座A*は5月12日にEHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)プロジェクトによってブラックホールシャドウの画像が公開されたことが話題となった(「天の川銀河中心にある巨大ブラックホールシャドウの撮像に成功」を参照)。巨大ブラックホールまわりの観測は過去にNASAのチャンドラX線望遠鏡でも行われており、偶然にもいて座A*まわりの短時間における多量のX線放射が観測されていた。このX線放射はバースト(多量のX線放射)もしくはフレア(爆発現象)による影響で放射されたものであり、いわゆる“ホットスポット”と呼ばれるガスの泡と関連していると考えられている。ブラックホール中心に向かって流入するガスが降着円盤にぶつかる点は明るく輝き、ホットスポットと呼ばれている。ホットスポットはブラックホールに近い場所を高速で軌道回転することで知られていた。またフレアはいて座A*まわりを回転するホットスポットの磁気相互作用によって発生すると考えられていた。

 

 今回研究チームはアルマ望遠鏡の電波観測データを用いて、いて座A*まわりのガスの運動の様子を調べることとした。その結果、いて座A*まわりを高速回転する“ホットスポット”と呼ばれるガスの軌道運動の兆候を発見することに成功した。Wielgus氏は「いて座A*まわりのフレアの観測はこれまでは主にX線や赤外線で行われてきた。しかし今回初めて電波観測によってフレアを起こす要因とも考えられているホットスポットの軌道運動の兆候を発見することに成功した。」とコメントしている。またオランダ・ラドバウド大学のポスドク研究員であるJesse Vos氏は「今回観測されたホットスポットは、赤外線で観測されたホットスポットとおそらく同じ現象である。赤外線で観測されたホットスポットが冷えていくことによって電波でも観測されるようになる。」とコメントしている。今回の発見はいて座A*まわりのフレアが、ブラックホール周りを高速回転するホットスポットの磁気相互作用によって発生するという理論モデルを支持することになったと研究チームは結論付けた。

 

 またアルマ望遠鏡による電波観測データはいて座A*まわりの電波の偏光性を調べることにも役立つとしている。電波の偏光性を調べることでブラックホール周りの磁場構造を解明することが可能だ。この磁場の構造と理論モデルを用いることでホットスポットの形成過程といて座A*まわりの磁場の形成過程を研究し、これまで以上にブラックホール周りの磁場構造の形を予測できるとしている。

 

 また過去にESOのVLT望遠鏡に搭載されたGRAVITY(2.0~2.4マイクロメートルの電磁波を扱う電波干渉計)とアルマ望遠鏡による観測でブラックホール周りのガスの塊が光速の30%の速さでブラックホール周りをフェイスオンで周回していることがわかっていたが、今回のアルマ望遠鏡による観測データの解析からも同様のことが確認されたとしている。

 

 研究チームの一人であるIvan Marti-Vidal氏(スペイン・バレンシア大学)は「GRAVITYやアルマ望遠鏡による多波長観測によってホットスポットを連続的に観測し、天の川銀河中心におけるフレアの物理学の理解を進めたい」と今後の抱負についてコメントしている。